19世紀にフランスのパリで誕生したフィナンシェは、片手でつまんで食べられるおやつとして人気になっていきました。その手軽さは、今のスマートフォンやリモートワーク・テレワークによるニーズにも、とてもマッチしています。
フィナンシェはたいへんシンプルな材料で作られています。それだけに材料の良し悪しが、味や食感に直結します。
ブランドや特定産地の名を冠した、とても高価な原材料も世の中にはあります。もちろん、そうした材料で作れば、それだけ美味しいフィナンシェができることでしょう。しかし、それでは手軽に食べられる値段のお菓子にはなりません。
なないろおやつのフィナンシェにとって、最適な品質の材料を厳しく選定しています。どれ一つ欠けてもなないろおやつのフィナンシェは作れませんし、他の銘柄では代用がきかない材料もあります。こだわって良い品質の材料を使いますが、でも値が張る最高級の材料はあえて使っておりません。
特別に高価な材料を使わない代わりに、それに劣ることなく、なないろおやつらしい食味を実現するために、複数銘柄の材料を特定比率でブレンドするなどの工夫をしています。
たとえば小麦粉。
サクサクした食感の表現が得意なクッキー向きの銘柄もあれば、しっとり&ふんわりした特徴を引き出すケーキ向きの銘柄もあれば、もちもちして食べ応えのあるパンケーキ向きの銘柄もあります。
こうした種々の特徴を持つ小麦粉を取り寄せて、なないろおやつならではの食感をしっかりと表現できるベストな配合を模索し、妥協することなく試作をずっと繰り返してまいりました。
なないろおやつのフィナンシェは、製造工程で添加物を加えません。
残念ながら仕入れた原料の一部にすでに含まれているものはありますが、当店の工程では余計なものは入れません。
もっといろんな味のフィナンシェを作らないの? 伊豆の特産品を使ったフィナンシェはないの? と、お客様からもお取引先からもお尋ねをいただきます。
でも、なないろおやつではフィナンシェらしい繊細さを味わっていただきたいから、試作を繰り返す中で、この材料を使ってしまうと結果的にフィナンシェらしい食味を損なってしまうと判断したものはあえて商品化しません。
たとえその見た目も味も及第点のフィナンシェであったとしても、なないろおやつのフィナンシェとして自信をもってお客様におすすめできないものは、いさぎよくボツにします。
トッピングやコーティングでごまかすことなく、しっかりとフィナンシェの生地で勝負していく。妥協しないこと、それが大きな理由です。このこだわりが、お客様にフィナンシェというお菓子とともに、食べてみたら美味しくて驚いたという体験も添えてご提供することにつながっていくと信じています。だからお客様から「どれがおすすめですか?」と訊かれると、思わず「全部、美味しいです」と朗らかに答えてしまうこともあります。
オリジナルラインナップでも、プレーンにはプレーンに、紅茶には紅茶に、チョコレートにはチョコレートに、アイテムごとに合った生地の状態になるようそれぞれに最適な手順で作り、オーブン内をそれぞれ最適に整えて、一つひとつの特徴をより引き出すように焼き上げています。
厳選した原材料に加え、アイテムごとに仕込みの手順も温度管理も一つひとつ異なっています。そのためすべてが手作りとなりますし、一つのオーブンで一度に一種類、少量ずつしか焼くことができません。だからこそ、大量生産品とは違った、職人の手わざが生み出す食味の良さを味わっていただけるものと考えています。
プレミアムラインナップの各アイテムも同様です。
たとえばグァテマラブレンドコーヒーのフィナンシェは、旨みのもとであるコーヒーオイルがフィナンシェにとって最適な量を含む時期に輸入された豆を用いて、毎年その期間に限定で販売します。含まれるオイルが多すぎても少なすぎても、なないろおやつが目指すフィナンシェにはなりません。
深蒸し緑茶のフィナンシェは、掛川産深蒸し茶と宇治抹茶を最適なバランスでブレンドして緑茶本来の旨みと渋みと甘みを引き出して、風味をしっかりとじこめるように慎重な温度管理のもとでじっくりと焼き上げます。濃く淹れたお茶そのものを味わっていただくフィナンシェを目指して、ここにたどり着くまでに試作に一年以上の月日を要しました。
また、フィナンシェの製造では温度や湿度、時には気圧の影響を大きく受けます。たとえば雨の日に焼いたフィナンシェと、カラッと晴れた日に焼いたものでは、湿度の差を受けて焼き上がりの感触などに違いが生じてきます。
だから湿気が多い日はエアコンや除湿器をフル稼働させて工房内の湿度をできるだけ下げて、店頭には人気の“焼きたて品”としては置いておかず、粗熱がとれるのをじりじりとして待って、早々に個包装に密封して品質を護ることを優先します。
美味しい状態でお召し上がりいただくことも、食品ロスに向き合うことも、それぞれが菓子店の大事な使命だと強く思っています。
なないろおやつのフィナンシェは高さがある深型の天板で焼いた、お得サイズです。
洋菓子店の片隅で、クッキーなど焼き菓子とともに置かれていたフィナンシェ。そのバイプレーヤーを主役にしたフィナンシェ専門店は全国的にもまだまだ希少で、しかもアツアツの“焼きたて”を販売するお店はもっと少ないと思います。
わたしたちのこだわりフィナンシェを、お気軽にお手に取って、存分にお召し上がりいただきたいと願っています。伊東で、お客様のお越しをお待ちしております。
決して手間を惜しむことなく、妥協することなく、店内のフィナンシェ工房では今日も職人が最高のフィナンシェを焼いています。
若いころ、偶然食べたある有名店のパンとケーキの味に惚れ込んで、この職人の道へと飛び込みました。
修行時代には実に7店で研修を受けながら働き、それを経て神奈川県横須賀市に念願の自分の店を持ちました。葡萄から天然酵母を起こしてパンを作るといったこだわりを発揮していましたが、そんな折にパンに用いたライ麦による小麦粉アレルギーを発症し、やむなく店を閉じて17年間の職人人生に一旦ピリオドを打ちました。
この若かりし職人時代に経験した中で、生涯どうしても忘れられない苦い思い出があります。それは食品ロス・廃棄の問題です。
パン店もケーキ店も、お客様が来店された際に商品が棚に無いということは当時は許されていませんでした。夕方の遅い時間になりお客様がほぼいらっしゃらなくとも、ほどなくして閉店時間になり廃棄することを前提として新たにパンやケーキを焼いて棚を埋めていました。
このことに大いなる疑問を抱きつつ、店の指示に従って製造し、時間になると断腸の思いでまとめてゴミ箱へ収めていました。当時は毎日のことながら、食べ物を棄てることが口惜しくてたまりませんでした。この時の思いが、なないろおやつの原点にあります。
時は流れ2020年の春、昔の職人としての腕を知る友人の勧めでなないろおやつを創業しました。この時、食品ロスを限りなく少なくすることを目標の一つに掲げました。
周囲からはケーキのような生菓子やパンの店とすることをずいぶん勧められました。しかしあの苦い経験を思い返し、日もちがする焼き菓子の店にするという思いを貫きました。さらに商品の種類を絞り込める専門店とすることで、原材料などの廃棄も同時に減らすことができるという思いがありました。
東京へ出かけて行って、焼き菓子のお店を数多く回って食べて研究しました。その際に立ち寄ったお店の一つが、フィナンシェが有名な行列のできる人気店でした。
そこで食べたフィナンシェは、昔の自分と同僚たちが製造していたフィナンシェとは比べるべくもなくまったくの別物で、その独特の繊細な美味しさに心から感動しました。調べてみると全国的に少数ながらフィナンシェの専門店が登場していて、お店それぞれに目指す理想のフィナンシェを提供し、ファンになってくださるお客様がいらっしゃるようでした。
自身の舌に宿ったフィナンシェの魅力を体現すべく、友人家族と協力してフィナンシェの専門店を立ち上げることに決めました。
しかしその専門性ゆえに苦労も多くありました。フィナンシェが持つ繊細さは食感と味の魅力であるとともに、製造を難しくさせる要素でもあります。
さらに製造工程では添加物を加えないというこだわりも、難易度を引き上げました。ひたすら試作を繰り返すもなかなか思うようなフィナンシェが焼けず、悩みの連続でした。
しかし少しずつフィナンシェとの“付き合い方”がわかってきて、開業後の今では味と品質に自信をもってご提供できるようになっております。今後もライフワークの一つとして、試作を繰り返してフィナンシェの新たな味を追求し、腕を磨いてより美味しいフィナンシェを作り出してまいります。
偶然ご来店くださって味見にとお求めになり、ほどなく踵を返して戻ってきてくださるお客様がいらっしゃいます。
たくさんお買い上げくださって、ご友人やご親戚に配ってくださるお客様がいらっしゃいます。
ご旅行中に何度も繰り返し立ち寄ってくださるお客様がいらっしゃいます。
伊東へ行く時は買ってきてねと、ご家族から催促されたとおっしゃってご来店くださるお客様がいらっしゃいます。
気に入ってくださって毎週のように通ってくださるお客様がいらっしゃいます。
こうしたお客様のお声を聴かせていただいた時、ほんとうに頑張ってきてよかったと心の底から思います。他店にはない、なないろおやつのこだわりが詰まったフィナンシェをぜひご賞味ください。(オーナーパティシエ 清水祐二)
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>>> 外は“カリッ”と香ばしく&中は焦がしバターの“じゅわー”ととろける食感の伊東でしか味わえない 焼きたてフィナンシェ。